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71皮膚科救急
<広範囲熱傷の初期治療>
1 まず,深さと広さの把握をします。
I度 深さが表皮内にとどまっている,すなわち発赤のみ
II度 真皮に達し水疱形成もしくは水疱が破れた状態(びらん)
III度 皮下すなわち脂肪組織もしくはそれより深い状態(壊死)
広さはII度とIII度熱傷面積の総和を,体表面積に占める割合(%DBSA)で算出。成人では体を11(頭部,右上肢,左上肢,体幹前面上部,体幹前面下部,体幹後面上部,体幹後面下部,右下肢前面,右下肢後面)の区分に分け,各箇所を体表の9%とみなす「9の法則」の利用が便利です。
成人で30%TBSA以上,幼少児・高齢者では15%以上を広範囲熱傷として扱い,全身の血管透過性亢進による循環血液量減少性ショックが初期状態において問題となります。
(II度面積)/2+III度面積(Burn Index)に,年齢を加えた,Prognostic Burn Indexが100を超える症例は重篤で,三次救急への転送が必要です。
2 (ここから先は三次救急レベルですが,記しておきます)まず気道管理が重要。気道は初診時に開存していても,体液シフトや大量輸液により,数時間遅れて浮腫により閉塞します。気道熱傷はさらにその危険を増すので,早めの気道確保が必要です。血管透過性の亢進は,コロイド製剤すら血管外に漏出させると考えられるようです。受傷後乳酸リンゲル液(ソルラクトTMR)など細胞外液補充液の大量投与で,循環血液量を確保します。Parklandの公式:4×体重(kg)×%TBSA mL/day,最初の8時間で半量投与を参考に,時間尿量が0.5-1.5mL/kg/時となるよう輸液します。
アルブミン製剤は厚生労働省指針(1999)で,50% TBSA以上,血液Alb濃度が1.5g/dL未満の症例に対し,発症24時間以降の使用が推奨されます。投与量は,体重(kg)×(3.0-血清Alb濃度)gです。広範囲熱傷はDICを合併しやすいので,初期より凝固系の検査を施行し,必要に応じ抗凝固療法を行います。また易感染状態に対し,抗生物質を全身に予防投与する。早期の起因菌はグラム陽性菌が多く,ペニシリン系(ペントシリンキット2gなど)やセフェム系第1,2世代(セファメジンαキット2g,フルマリンキット1gなど)の使用が一般的です。薬剤耐性菌や深在性真菌症が問題となり,定期的監視培養や抗菌薬の早期投与が必要となります。
代謝と異化の亢進が生じ,敗血症を併発するとさらに増悪します。必要投与熱量は25cal/kg/day+40cal/熱傷面積(%)/日を目安に,可能な限り経腸投与します。積極的にインスリン投与し(持続型インスリンを1単位/mLに希釈して持続静注),血糖値を120mg/dl以下に下げます。室温を上げ,疼痛管理を行うことが,異化亢進を抑えるうえでも重要です。
四肢や指の全周性熱傷は末梢の壊死につながり,体幹では胸郭コンプライアンスの低下や腹部コンパートメント症候群の原因となります。できるだけ早期に減張切開を行います。III度と深達性のII度熱傷には,焼痂切除と植皮が必要となることが多いです。広範囲熱傷では循環動態が安定次第,具体的には第2-3病日に,第1回目の植皮を行う早期手術が主流です。手術の不要な待機は,創感染から敗血症への移行を招き,救命の機会を逸します。
<熱傷の局所療法>
消毒します(生理食塩水でも可)。化学熱傷(アルカリなど)の場合は,水道で約1時間洗い流してください。
1 I度熱傷:発赤のみ リンデロンVG軟膏
2 浅達性II度熱傷:水疱または浅いびらん ゲンタシン軟膏。
発赤と水疱のみで,水疱が温存されているならリンデロンVG軟膏
注:ゲンタシンは一週で治らなければ耐性菌が生じると考えて下さい(つまり,一週間で治らない場合は治療法を変えるべきです)。また,最初は発赤のみでリンデロンVG外用としても,あとで深くなることもあります。お年寄りの場合,悪化しながらも再診まで何ヶ月もかかることがあり,その間ひたすらゲンタシンをひたすら塗っていた例をみたことがあります。確実に再診に来られなさそうならばゲーベンクリームを最初から使った方がいいでしょう。
3 進達性II度熱傷,III度熱傷:上記よりも深い ゲーベンクリーム
II度,III度熱傷で感染がなければ,創傷被覆材デュオアクティブET(滲出液が少な目のとき)あるいはデュオアクティブCGFもよいでしょう。
顔面の場合,鼻毛が焦げている場合気道熱傷を疑います。
熱傷では,初期の段階では深いか否か判定が難しいこと,跡が残るか否かは時間がたたないと判定できないこと,化学熱傷では治療開始後でも組織の破壊が徐々に進んでいくことを伝えて下さい。
<アナフィラキシーショック>
蕁麻疹の特殊型です。薬剤,食品,虫刺,蛇毒のほか,運動,寒冷曝露などが誘因となり生じる。紅斑,そう痒,結膜充血,流涙,鼻漏,鼻閉などの皮膚症状,口唇や手足のしびれ,悪心などに始まり,進行すると顔面蒼白,胸内苦悶,喘鳴,意識障害などが生じます。
1 気道確保と酸素投与(3-5L/分)
2 急速輸液
3 ボスミン投与。0.2-0.5mg(0.2-0.5アンプル)筋注。血圧低下が著しい場合は1アンプル(1mg)を生理食塩水10mlに溶かし1回0.1-0.2mg(1-2ml),5分間隔で緩徐に静注
4 ステロイド投与。症状の遷延化を防止する目的であり,即効性はない。500mgをソリタT3に溶解し6時間間隔で点滴静注
5 蜂毒アナフィラキシーの既往例・危険例に限定して,自己注射用のエピペン注がありますが(保険適応外),それは説明だけにして,後日皮膚科を受診させて下さい。
<蕁麻疹>
発疹が「膨疹」(もりあがっていて赤い)です。皮疹は小豆大から手掌大のことが多く,重症例では地図上に癒合した皮疹が体表の大部分を覆うこともあります。腹痛を伴う場合もあります。外用は効きません。(診断に自信がなければステロイド外用薬の処方もやむを得ませんが……)
第1世代の抗ヒスタミンと第2世代の抗ヒスタミンの併用でだいたい効きます。(専門的には,物理的刺激が誘因の「コリン性蕁麻疹」があり,抗ヒスタミンが効きづらいものもあります。)
一種類だけでいいのかもしれませんが,一種類では無効であることもあり,医者の好みもあるかと思いますが,最初は二種類だしたほうが良いかもしれません。二種類でも効かない場合もあることをお伝えして下さい。眠気が来ることもあること,眠気が来て眠気で車の運転や危険な作業に従事する必要がある場合,内服をやめるよう伝えて下さい。
内服で効果なければ(問診で,「市販のレスタミンを内服したが効果なかった」「他院で出された薬が効果ない」など),ソルコーテフ200mg+ソリタT3のdivがよいでしょう。
強ミノの静脈注射を希望される人がいます(昔から病院に通っている人や年輩の看護師など)が,たまに副作用で嘔吐があり注意がいります。生食100mlに溶かしてdivがいいかもしれませんが,注射するなら,ポララミンの注射薬(5mg/アンプル)のほうがいいと思います(強ミノとの併用可です)。なお,強ミノ静脈注射は,コストパフォーマンス的には,注射器のコストを考えるとマイナスになるそうで,最近の(内科や外科の先生が皮膚科も標榜している開業医を除くと)皮膚科医はあまりやりません。ただし,強ミノで蕁麻疹に伴う腹痛が止まることがあるという話を聞いたことがあります。
<虫さされ症>
一種のアレルギー反応で,リンデロンVG軟膏を外用とし,,抗ヒスタミン薬を併用してもいいでしょう。眠気が来ることもあることを伝えて下さい。院内約束処方の「DERM」でもかまいません。抗生物質は不要です。
蜂に刺された場合,デルモベート外用のほうがいいでしょう。
血圧低下があれば,アナフィラキシーに準じてボスミン0.2-0.5mg(0.2-0.5アンプル)筋注として下さい。
蜂でも蚊でも一日経つと発疹が拡大・増悪する人もいますので,軽く説明して下さい。
<薬疹>
ソルメドロール500mg in ソルラクトTMRをdivして下さい。外用はデルモベート(顔以外),リンデロンV軟膏(顔)を。抗ヒスタミン薬も内服させて下さい。
ソルメドロールはステロイドで胃潰瘍を生じやすいので,ファモチジン(多剤との相互作用の少ないのを選ぶ)を使って下さい。重症の場合口腔粘膜症状を合併するのですが(Stevens-Johnsons’ syndrome),薬を飲めないとき,抗ヒスタミンはポララミン注IV,胃潰瘍の予防はアルタット注IVとして下さい。
眼症状が生じたときは,フルメトロン0.3%一日四回,一回一滴,その他ヒアルロン酸を二時間おきに点眼させて下さい。
全身の皮膚が剥奪するTEN(Toxic epidermal necrolysis)では,三次救急か大学病院に転送したほうがよいでしょう。