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14炎症性角化症・乾癬

<この項で出てくる主な疾患と簡単な診断法>

尋常性乾癬:頭のフケが多い。ひじ,ひざ,すね,お尻の真上にもできやすく,境界がはっきりした赤い部分が体に散在し,粉っぽいものが付着していて,その赤い部分は境界がはっきりしている。

関節症性乾癬:尋常性乾癬で,指・肩・肘・踵・腰などに関節症状があるもの。

<詳説>

炎症性角化症とは

 炎症と,角化のサイクルの亢進によります。

尋常性乾癬

 鱗屑を付着する境界明瞭な紅色局面が多発します。好発部位は被髪頭部・腰背部・四肢伸側です。乾癬は英語でPsoriasisといい,もとはラテン語の「痒い」から来ているのですが,実際には痒みはないかあっても軽度です。

 爪の変型も認められ,最初爪白癬と誤診されることもあります。

 関節症状の合併も認められることがあり,その場合は関節症性乾癬といいます。まれに最初関節リウマチと誤診されることもあります。

 原因は自己免疫疾患で,例えばバセドウ病の合併が乾癬のない方と比較して優位に高いという報告があります。

 また,統計的に糖尿病,高脂血症,高尿酸血症,高血圧の方が多いとされていて,現在乾癬の患者様は増加しつつあり,有病率は0.05〜0.1%という説もあります。動脈硬化との因果関係は最近明らかになりつつあり,食生活の影響が関与しているようです。辛いものを好んで食べる人が多く悪化因子であると考える医師もいます。

 難治性で対症療法が主ですが,3割の患者様は一時的にせよ症状が消失するという説もあります。

治療:VitD3外用

 乾癬は,新しい治療薬が続々出てきました。VitD3製剤であるオキサロール軟膏があります。温めると伸びやすくなるという特徴がありますので,軟膏の容器を熱湯につけてから伸ばして使うとよいでしょう。肌を刺激しないように,擦り込むのではなく伸ばす,あるいは軽く叩く要領で塗布して下さい。一日に一本(10g)をこえて用いると,腎機能異常により血圧が高くなる,あるいは高カルシウム血症ので,注意が必要です(このため,広範囲に皮疹のある方は白色ワセリンを手のひらの上で使用直前に混合し「希釈して」から塗布する場合もあります)。

 他にはドボネックス軟膏もあります。ヒリヒリ感があり顔に使いづらく,上記の副作用はありますが,1週間に10本(100g)まで使用可,つまり1日に1本以上使えるというメリットがあります。また,オキサロールはドボネックスより効果があると一般的にいわれますが,どういうわけか1割程度の患者様は,オキサロールよりドボネックスのほうが利くようです。

 その他VitD3製剤として,効果は弱いですがボンアルファ軟膏があります。上記の副作用があるにも関わらず広範囲に塗布せざるを得ない場合に用いることがあります。オキサロールにはヒリヒリ感はふつうありませんが,訴える方はボンアルファを処方することがあります。

治療:ステロイド外用

 ステロイドの外用もあります。Strong〜Strongestの軟膏を用います。オキサロールにくらべると速効性があるというメリットがあります。そのため,最初はオキサロールとステロイドを併用し,徐々にステロイドを中止していくこともあります。ただし,Strongestのステロイドは長期に渡って広範囲には用いたくないこと,長期間外用を続けると効果が低下する例もあり,注意が必要です。また,皮膚症状がないところまで塗布することにより皮膚が薄くなることがあるので,塗布に関し医師は指導が必要です。Very strong以上のステロイドは顔には避けるようにします。

 以上は四肢・体幹ですが,面倒なのが頭皮です。前述のオキサロールやドボネックスにはローションがないので,ステロイドの外用剤を用いることになります。ボンアルファにはローションがありますが,効果が弱く好まない医師も多いようです。髪を短くし,オキサロールを塗るという裏技もあります。

治療:その他の外用薬

 また,鱗屑が多いと薬が皮疹にしみ込んでいきにくいため,尿素製剤・サリチル酸ワセリンといった鱗屑を除く古典的な薬を併用することもあります。ただし,サリチル酸ワセリンはオキサロールを分解するので,併用を好まない医師もいます。

 他には保険適応外ですがプロトピックが有効な例もあります。

治療:ネオーラル内服

 内服の第一選択はネオーラルです。以前はサンディミュンが用いられてきましたが,ネオーラルには血中濃度の安定という長所があります。3〜5mg/kgで用いますが,腎機能低下・血圧上昇という副作用があるため,低用量とすることもあります。血中濃度・血液検査・血圧の測定も必要です。

 なお降圧剤を併用する場合としては,Ca拮抗薬が第一選択とされてきました。ACE阻害薬を用いる場合もあります。

 これはネオーラル内服時に限ったことではないのですが,降圧剤は乾癬の増悪因子と報告されているものが多いので,使わないでいいならそれにこしたことはありませんが,やむを得ず使うならベータブロッカー以外なら皮膚科的にあまり問題はありません。面倒なのは糖尿病性腎症の合併してる場合腎臓を保護したり電解質のバランスをとる必要があり,また尿酸値を上げる降圧剤もあって,内科に相談することが必要になってくることもあります。

治療:チガソン内服

 古典的なチガソンもありますが,男性でも催奇性があり,肝障害という副作用があり,開始時には医師が丁寧に説明し同意書を取る必要があり,血液検査を定期的に行わなくてはいけません。骨に影響をもたらすため,胸腰椎移行部のX線撮影を定期的に行う医師もいます。また,口唇炎・倦怠感・盗汗・脱毛・顔面潮紅などのQOLを悪くする副作用が多く,嫌う患者様が少なくありません。手のひら・足の裏の皮膚が薄くなりやすいのですが,手のひら・足の裏の角質肥厚が目立つ患者様(稀)がいて,その場合は積極的に使う方がいいでしょう。なお,オキサロールを多く使う場合,チガソンと併用すると,チガソンにより皮膚が薄くなりオキサロールの吸収がよくなり過ぎて高カルシウム血症・腎機能低下が起こりやすくなり,経験上注意が必要です。同じことはステロイドを広範囲に用いる場合にもあてはまります。

治療:その他の内服薬

 保険適応はないのですが,抗癌剤や抗リウマチ薬として用いられているリウマトレックスも有効とされています。ただし,長期間に用いると間質性肺炎を起こしやすくなり,中止しても軽快しないため,若い患者様には使いづらいと思います。

 また,掻いて点状出血を生じたり(アウスピッツ現象),皮疹のないところをこすって新しい皮疹が生じる(ケブネル現象)のを防ぐため,抗アレルギー剤も用います。保険適応になっているのはアレジオンとアレロックです。

 高脂血症の薬には乾癬に効果があると報告されているものもあり,高脂血症の患者では試みることがあります。

 以前は抗生物質によっては乾癬に効果があるとされ,一部の病院では積極的に用いられていましたが,最近はあまり用いられていないようです。ビオチン・漢方薬が効くという説もあるようですが,はっきりしません。

 なおステロイドの内服は,乾癬の悪化を誘発するという説があるので,避けた方がいいでしょう。ただし,関節症状が強い場合や内科的な問題などで内服せざるを得ない場合もあり,難しいところです。

治療:その他・生活指導

 他には,温泉療法・紫外線療法も有効です。日光浴は原則として有効です。また睡眠不足・ストレス・感染・外傷は避けるようにしましょう。特に齲歯(虫歯)は,感染とストレスをもたらすので要注意です。

扁平苔癬

扁平苔癬
 症状
 個疹は豌豆台までの,円形ないし,いわゆる「金平糖のような」多角形,扁平に隆起した淡紅から紫紅ないし紅褐色の,表面光沢ないし白色調の厚い鱗屑を有する小丘疹。オリーブ油滴下で表面に灰白色の線条鱗屑(Wickham線条)を認める。陳旧化すると,中央がわずかに陥凹する。集ぞく性または散発性,ときに帯状,まれに環状に並ぶ。癒合して局面を形成することもある。
 そう痒はさまざまで,殆どないものから激痒を伴うものまである。手背,前腕,足背,体幹,外陰部に後発。
 粘膜,特に頬粘膜にも生じうる。頬粘膜では白色網状ないしレース状の浸潤性白斑(Wickhamの線条)があり,白色病変が主体あるいはびらん・紅斑が主体。口唇の場合,潮紅を伴う白色局面で,びらんを伴うこともある。円板状エリテマトーデスとの鑑別が問題となることもある。
 ケブネル現象陽性。
 爪変化(1から10%):点状陥凹,ひ薄化,萎縮,縦条,縦裂,層状剥離,層下角質増殖,翼状爪,脱落,後爪郭部が紫褐色調  まれに紅皮症化(慢性GVHDとの鑑別が必要。苔癬型薬疹ではTENに移行する場合もあり,注意が必要。)

 疫学
 男性に多く,40から60歳代に後発。

 異型
 線状扁平苔癬
 疣状扁平苔癬 角質増殖し肥厚,疣状。高齢者の下腿に好発。
 鈍性扁平苔癬 半球状に隆起。
 水疱性扁平苔癬
  液状変性が強く水疱を形成。ニコルスキー現象陽性。まれ。
  水疱性類天疱瘡が鑑別になる。
 色素性扁平苔癬
 色素性苔癬

 病因
 不明。ウィルス特にHCV・細菌感染,免疫反応,循環障害説,アレルギー説,精神的ストレス,自律神経機能異常,糖代謝障害説など。薬剤誘発性も多い。(降圧剤,抗てんかん薬・脳代謝促進剤など中枢神経系薬剤,経口糖尿病剤,PAS,ペニシラミン,カラーフィルム現像液,インターフェロン製剤,抗生物質,抗マラリア薬)口腔病変では歯科金属との関連もある。

 組織所見  錯覚化のない過角化,顆粒層肥厚,表皮の不規則な鋸歯状増殖,基底層の液状変性,その下の裂隙形成,表皮真皮接合部から乳頭層の帯状細胞浸潤(リンパ球・組織球より成り,下縁は直線状),表皮直下にコロイド小体,色素失調,免疫蛍光法でIg,Cの沈着。
 予後
 慢性に経過。各種治療に反応するが,ときに抵抗。後に色素沈着または脱失を残すことあり。口腔内では稀に(1%以下)悪性化。

 治療
 Very StrogないしStrongestのステロイド外用,全身性で難治の場合エトレチナート・シクロスポリン内服。
 口腔内では,口腔清掃,齲歯・不良充填物・義歯などの歯科的刺激因子の除去,金属パッチテスト陽性なら金属除去で軽快する事もある。
 口腔内を含め粘膜における薬物療法としてはステロイド含有軟膏・タクロリムス軟膏,口腔では噴霧薬剤。
 

 鑑別診断
 薬剤性苔癬,慢性GVHD,扁平苔癬様角化症,慢性湿疹,乾癬,類乾癬,菌状息肉症,真菌症,梅毒,紅斑性狼瘡,汗孔角化症,多形紅斑。
 口腔内は白色角化症,白板症,有棘細胞癌,開口部プラズマサイトーシス,カンジダ症,梅毒。
 口唇では円板状エリテマトーデスとの鑑別が問題となることもある。
 亀頭部では乾癬,カンジダ症,梅毒。
 補遺
 苔癬型皮膚反応 T細胞が表皮を攻撃することによる。基底層が破壊され,ケラチノサイトが変性し,液状変性となり,シバット小体が出現。Parakeratosisが生じ,真皮浅層にはT細胞(CD4・CD8)が密に帯状に浸潤する。扁平苔癬・光沢苔癬の他,アミロイド苔癬,苔癬型薬疹,固定薬疹,lupus erythematodes,皮膚筋炎,多型滲出性紅斑,GVHD,Pitiliasis lichenoides,Disseminated superficial actinic prokeratosis,Lichenoid actinic keratosis,脂漏性角化症・扁平疣贅の退縮期,色素失調症,Riehl黒皮症,Erythema dyschromicum perstansなど。
 

(以下随時増補します)