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10潰瘍・壊疽・糖尿病性足病変

<この項で出てくる主な疾患と簡単な診断法>

糖尿病性潰瘍:長期間にわたって糖尿病に罹患している方で,足の傷がなおりにくく,むしろ悪化傾向にある。→足の皮膚より奥深くまでばい菌がいると死亡率が高く,そうでなくても放っておくと後で足を切断することになりやすいので,その時期になる前に,すぐ病院に行くこと!!

<詳説>

糖尿病性潰瘍

 糖尿病ではよく足に潰瘍ができます。その理由を,糖尿病によく生じる合併症を用いて説明します。

 糖尿病の三大合併症といわれるものが,網膜症,神経症状,腎症です。これらは糖尿病特有の合併症ですが,他に糖尿病以外でも生じやすいのが動脈硬化も重要です。

 動脈硬化のため,足に流れる血流が悪くなる,あるいは自律神経の異常に伴い血流をコントロールできない,また足に傷ができても神経の異常・視力低下のため気がつかず放置する,というわけです。

 糖尿病性潰瘍は,糖尿病のコントロールが重要です。入院による食事療法が望ましいと思います。糖尿病の専門科による薬物療法も重要です。インスリンを導入することもまた重要です。潰瘍の軽快に伴い血糖値が下がり低血糖発作を起こしやすくなるので,こまめに診察して頂く,あるいはスライディングスケールを作って頂くことが重要です。高血糖時の指示,低血糖時の指示も忘れないようにしましょう。インスリン治療になれている患者様の場合,本人にセルフで対処させた方がいいかもしれません。なぜなら,低血糖発作は患者様にとって不快感があり,網膜症の影響を気にされる方もいて,ナースが指示を確認する前に自分で対処したいと感じる方がおられるからです。

 入院時に内科・眼科に,腎症・網膜症・神経障害の有無をチェックしてもらいましょう。また,ABI,PWVを調べ動脈硬化のチェックをすることも重要です。また,糖尿病性潰瘍の患者様は,8年以内にほぼ半数が心筋梗塞・不整脈などで亡くなるというデータもあり,全身管理が重要です。

 感染の合併も注意すべきです。壊死性筋膜炎になると致死率が三割ですので,特に注意が必要です。ただ,面倒なことに白血球増多・CRP上昇・発熱・疼痛などの感染徴候に乏しいことが糖尿病の患者様ではよくあるので,面倒です。

 疲労骨折・骨髄炎を見落とさないために,骨X線を撮っておきましょう。技師さんに軟部組織がとれる条件と指定して下さい。X線により,動脈の石灰化をチェックすることができます。

 ただ,X線だけでは骨髄炎の判定が難しいことが多いため,MRIも必要となることが多いようです。

 潰瘍の治療について説明しましょう。まず急性期はデブリドマン,生理食塩水による洗浄を中心とします。ヨードホルム・ガーゼによる死腔充填,ユーパスタあるいはゲーベンクリームで抗菌をはかる必要があります。黒色調にミイラ化した場合,つまり壊死した場合は,dry gangreneとして自然脱落を待つことになります。この場合,疼痛のコントロールが難しく,本来は癌性疼痛として使われる強力なNSAIDなどを用いることもあり得ます。

 次に慢性期について。感染があり滲出液が多ければユーパスタを用いますが,無菌状態で滲出液が少ないならばアクトシン・オルセノンを用います。最近はフィブラストスプレーもあり,効果があります。肉芽が隆起し過ぎている場合は皮膚が周囲から張ってこないので,あくまでも無菌状態という前提がありますがリンデロンVの外用という裏技もあります。

 培養検査で菌が陽性となっていても,蜂窩織炎の合併がなく膿性滲出液が少なく,良好な肉芽も形成されれば,感染より「定着」と考えるべきで,抗生物質の全身投与は不要です。

 血流改善のためリプルの点滴も併用されます。外来の場合は,オパルモン内服も用いられます。

(以下,工事中)