01湿疹・アトピー性皮膚炎
<この項で出てくる主な疾患と簡単な診断法>
湿疹:痒くて,赤かったり,小さい水膨れができたり,湿っぽかったり,もりあがったり,ざらざらしたり,ひっかいたことによるかさぶたができたりし,慢性化すると皮膚が固くなる。
接触皮膚炎:化粧品・整髪料・アクセサリが皮膚に触れているところが痒い。サクラソウ・ニッケル・ウルシ・マンゴーなども原因となりうる。
手湿疹:水仕事をよくする人に多く,手のひらの硬化・ひびわれがあり指紋が消える。
おむつ皮膚炎:おむつの尿・便による(カンジダでないかどうか注意!)。
脂漏性湿疹:頭のフケが多く,痒い。壮年期の男性に多い。
貨幣状湿疹:貨幣大で,黒褐色で,とても痒い。すねによく見る。
自家感作性皮膚炎:貨幣状湿疹などの湿疹が原発となり,全身にかゆみの強い皮膚症状が播かれるように広がった場合。
アトピー性皮膚炎:湿疹が全身にでき,特に頭・眼の周り・唇の周り・首・肘や膝の内側・胸・背中に目立つ。顔が赤くなる。気管支喘息やアレルギー性鼻炎との合併が多い。
<詳説>
湿疹
湿疹反応は,化学薬品,花粉,ハウスダスト,真菌,細菌などの外来刺激(ハプテン)が,ヒトの準備状態というべき内因(健康,経皮吸収更新,皮脂分泌,発汗異常,接触アレルギー,アトピー,感染アレルギーなど)を介して生じます。
皮膚は外から順に表皮,真皮からなりますが,湿疹反応は主に表皮での出来事です。表皮が肥厚した状態を苔癬化といいます。なお,真皮にもリンパ球浸潤が認められます。
臨床的には,病型は接触皮膚炎,尋常性湿疹,内因性湿疹,脂漏性皮膚炎,Vidal苔癬(頚部に生じ,苔癬化・丘疹が目立つ)に分類されます。また得意な像を示すものとして,貨幣状湿疹(黒褐色の色素沈着を伴い,とてもかゆい),自家感作性皮膚炎(貨幣状湿疹など皮膚症状がある部位に黄色ブドウ球菌などによる二次感染起こり菌体が全身に回ることなどによりおこる),アトピー性皮膚炎があります。
湿疹は症状としては紅斑→丘疹→小水疱→膿疱→湿潤→落屑と経過をとり(途中の過程が一部ない場合もある),以降治癒または苔癬化(湿疹反応が慢性化した状態)となります。
湿疹の定義は面倒なのですが,以下の三要素を備えます。1:点状状態(小水疱・丘疹・膿疱・鱗屑など),2:多様性(丘疹・小水疱・膿疱・結痂・落屑などが同時にまたは異なる時期に生じる),3:そう痒
接触皮膚炎
「かぶれ」です。以下のように分類されます。
一次刺激性皮膚炎:皮膚に対する直接の物理的,化学的障害により生じます。
アレルギー性接触皮膚炎:アレルゲン(アレルギーを生じる物質)が免疫系に記憶され再度の接触により遅延型アレルギー反応が惹起されます。
光接触性皮膚炎:接触原が光線エネルギーにより毒性物質に変化して生じます。
非アレルギー性接触蕁麻疹:接触原の表皮細胞への刺激によりヒスタミンが生じたり,直接血管透過性を亢進させ膨疹反応が惹起されます。
アレルギー性接触皮膚炎:アレルゲンに対する特異的IgE抗体を介した即時型アレルギー反応。接触部位以外にも生じ,アナフィラキシーショックを起こすことがあります。
アレルギー性接触皮膚炎の発症機序
1 初感作:表皮のランゲルハンス細胞で抗原(生態にとっての異物)を貪食
→皮膚の所属リンパ節でTリンパ球に抗原提示が起こる
→Tリンパ球が表皮に遊走し,メモリーTリンパ球として残る
2 二回目以降(惹起相)表皮のメモリーTリンパ球がランゲルハンス細胞により活性化
→種々のサイトカインを産生し,keratinocyteを破壊
接触皮膚炎の発症部位と原因物質
有名なのがサクラソウ,ニッケル,ウルシなどです。以下,部位別に列挙していきます。
頭:ヘアダイ,コールドパーマ,整髪料,ヘアムース,育毛剤。たとえば永年使い続けていたヘアダイが急に接触皮膚炎の原因になることがあります。
眼囲:アイシャドウ,アイビューラー,点眼薬,ゴーグル,漆,銀杏
耳:イヤリング,ピアス
顔:化粧品,化粧水,乳液,ファンデーション,白粉,香水,アフターシェーブローション
口囲:マンゴー,山芋,口紅,歯磨き粉
頚部:ネックレス
体幹:ブラジャーの金具,金属ホック,下着,バップ剤
腋窩:制汗剤,水銀蒸気
上肢:植物,サクラソウ
陰部:コンドーム,生理用品
手・手首:時計バンド,ブレスレット,手袋,指輪,洗剤,シャンプー
大腿:硬貨(ポケットの生地の空間を通じて接触)
足:靴
パッチテスト
貼付試験ともいい,アレルギーを起こすと疑われる物質が,本当にアレルギーを起こすかどうかを調べる検査です。その物質を患者の体に48時間貼ります(ほとんどが閉鎖式,つまり密封します)。国内で扱われる基準を記しておきます。
− 反応なし
± 軽微な紅斑
+ 紅斑
++ 紅斑・浮腫
+++ 紅斑・浮腫・丘疹・水疱
接触皮膚炎の治療
ステロイドの外用,抗アレルギー薬の内服,原因物質の除去。重症なら3日程度のステロイド内服。
毛染めが原因なら,別なものにする。ピアスが原因ならやめます。
美容師や医療従事者がゴム手袋を使っていて,その手袋によるものであれば,別のものにします。
アトピー性皮膚炎の患者がステロイドを嫌うため非ステロイド系の外用薬を用いている場合は,それが原因となりうるので変更を考慮します。
手湿疹
日本人に多い疾患です。水仕事をよくする人に多く,手のひらの硬化・皸裂(ひびわれ)・指紋の消失が認められます。
治療は保湿剤・ステロイド外用(手のひらに症状があって手の甲に症状がない場合は手の甲に塗らせないよう指導)。ひびわれには亜鉛華軟膏。角化が強ければ5%サリチル酸ワセリンも。洗い物をするときゴム手袋の着用が必要ですが,さらにその下に綿の手袋を着用するのもよいでしょう。
おむつ皮膚炎
おむつの尿・便によります(カンジダでないかどうか注意!)。こまめにおむつを変えることが重要です。皮膚を拭く時,ごしごしこすって皮膚を傷つけないようにします。
外用薬としては保湿剤,非ステロイド系外用薬,弱いステロイドを使います。
脂漏性湿疹
頭部・顔面・腋窩などの脂漏性部位に好発する湿疹で,頭部では粃糠様落屑もきたします。壮年期の男性によくみられます。尋常性乾癬,酒さ,酒さ様皮膚炎との鑑別が重要となります。
ステロイド外用の他,粃糠様落屑が頭部にあればウレパールのローションも用います。真菌が関与しているともいわれ,ニゾラールクリームも有効といわれます。
ビタミンB2,B6の内服も併用します。
貨幣状湿疹
下腿伸側などにあらわれる貨幣状の湿疹です。StrongからVery strongクラスのステロイドが必要で,抗ヒスタミン・抗アレルギー剤も併用します。
自家感作性皮膚炎
貨幣状湿疹などの湿疹が原発となり,全身にかゆみの強い漿液性丘疹や紅斑を主体とした疾患です。貨幣状湿疹同様の治療が必要ですが,全身に皮疹が散布しそう痒感が著しい時は入院させプレドニン15mg内服やデルモベート外用と,強力な治療が必要で,軽快しつつあればプレドニン内服は中止してよいのですが,外用薬は容易にrank downすると再燃するので要注意です。
アトピー性皮膚炎
世界的に増加し,日本では全学童の12〜13%が罹患とされています。基本的に上に記したアレルギー性接触皮膚炎と同じ機序ですが,特にCD8+ Tリンパ球(CTL)が重要とされます。Th1というサイトカインの関与も重要視されています。また,増悪因子として,環境因子,食物,細菌・真菌,ストレスがあります。Wiskott-Aldrich症候群,Hyper-IgE症候群などを鑑別する必要があります。
アトピー性皮膚炎の定義・診断基準
(日本皮膚科学会)
一 アトピー性皮膚炎の定義(概念)
「アトピー性皮膚炎は,増悪・緩解を繰返す,そう痒のある湿疹を主病変とする疾患であり,患者の多くはアトピー素因を持つ。」
二 アトピー性皮膚炎の診断基準
1.そう痒
2.特徴的皮疹と分布
I 皮疹は湿疹病変
II 分布
四肢関節部,体幹
3.慢性・反復性刺激(しばしば新旧の皮疹が混在する):乳児では2ヶ月
以上,その他では6ヶ月を慢性とする。
上記1,2,および3の項目を満たすものを,症状の軽重を問わずアトピー性皮膚炎と診断する。そのほかは急性あるいは慢性の湿疹とし,経過を参考にして診断する。
三 除外すべき診断
接触皮膚炎,汗疹,脂漏性皮膚炎(編注:新生児・幼児などにみられる),魚癬類,単純性痒疹,皮脂欠乏性皮膚炎(編注:冬,高齢者に多い),単純性痒疹,手湿疹(アトピー性皮膚炎以外の手湿疹を除外するため),疥癬(原虫の一種による感染症。丘疹。指の間にみられる)
四 診断の参考項目
家族歴(気管支喘息,アレルギー性鼻炎・結膜炎,アトピー性皮膚炎)
合併症(気管支喘息,アレルギー性鼻炎・結膜炎)
毛孔一致性丘疹による鳥肌様皮膚
血清IgE値の上昇
五 臨床型(幼少時用)
四肢屈側型,痒疹型,四肢伸側型,全身型,小児乾燥型,頭・頸・上胸・背型。これらが混在する症例も多い。
六 重要な合併症
眼症状(白内障,網膜剥離など):とくに顔面の重症例
カポジ水痘様発疹症
伝染性軟属腫
伝染性膿痂疹(編注:黄色ブドウ球菌,A群β溶れん菌による感染。痂皮形成が著明。腎炎を起こすこともあるので注意)
いろいろ書きましたが,アトピーでないものをアトピーだと診断してはいけないこと,
アトピーである場合は治療・指導をきちんとすること,
また水いぼ(伝染性軟属腫)を治してほしいと親御さんが子どもを連れてきたら,全身をきちんとみてアトピーでないかどうか
(というよりアトピー肌があるのが普通)チェックする,ということが重要です。
アトピー性皮膚炎の治療
1 ステロイド軟膏・クリーム・ローションの外用
ステロイドは強弱様々なものがあります。主な作用は血管収縮作用,ケミカルメディエータ抑制などの抗炎症作用です。一方,皮膚萎縮,毛細血管拡張,紫斑,多毛,最近・真菌感染症の誘発,ステロイドざ瘡などの副作用もあり,皮膚の症状を考慮してどの程度の強さの外用薬がよいか考えることになります。顔・首はステロイドを吸収しやすいことなども注意する必要があります。ステロイドを強い順に並べると以下の通りになります。
外用薬には軟膏,クリーム,ローションがあり,軟膏は塗った時にべと付くが日本人の皮膚にはむいている,クリームは塗った時にべと付きにくいが,時に刺激性あり,湿潤病変には使用しない,ローションは被発頭部むきだが髪が短い場合は軟膏外用に劣る,という特徴があります。
分量ですが,全身に軟膏を塗布すると約30g必要ということを基準に処方量をきめていきます。塗布の回数は一日に一,二回で,四回まで可です。
I群:Strongest
デルモベート
ジフラール/ダイアコート
II群:Very Strong
フルメタ
アンテベート
トプシム
リンデロン-DP
マイザー
ビスダーム
ネリゾナ
パンデル
III群:Strong
エクラー
メサデルム
ボアラ/ザルックス
アドコルトン
ベトネベート/リンデロン-V
プロパデルム
フルコート
IV群:mild
レダコート/ケナコルトA
ロコルテン
アルメタ
キンダベート
ロコイド/プランコール
デカダーム
V群:weak
プレドニゾロン
コルテス
リント布に伸ばして貼付する方法,ステロイド外用の後に亜鉛華軟膏などを重ねて用いる方法もあります。浸潤・肥厚・苔癬化した皮膚面には外用後サランラップなどで覆う密封包帯療法(ODT)をよく用います。
なお,ステロイドのローションでは基剤による使用感の差も問題となります。例えばデルモベートでは使ってスースーする感じがするのが気持ちいいという患者もいれば,しみて嫌がる患者もいるので,患者毎にあったものを選ぶ必要もでてきます。
2 プロトピック外用
免疫抑制剤です。強さはステロイドのStrongクラスですが,皮膚症状が弱い部位に用いても副作用がでにくいため,使いやすいという特徴があります。高価であること,顔の皮膚との相性を考慮し,顔のみ,特に難治性のred faceに用いるのが普通です。
はじめて使用する時に火照り感はありますが,短期間にVery Strong以上のステロイドを外用してから切り替えると火照り感は出にくいようです。
ステロイド(あるいはプロトピック)外用以外に,以下の治療法もありますが,あくまでもアトピー性皮膚炎の治療はステロイド・プロトピック外用であり,他の治療は補助的に用いることになります。
3 保湿剤外用。医薬品ならヒルドイド・ヒルドイドソフト・ヒルドイドローション,ウレパールなど。
最近の皮膚科の専門誌にデータが載りましたが,湿疹が軽快してから,そのよくなった状態を保ち続ける効果が保湿剤にはあります。
私は,市販のものでもよいものであれば,アトピー性皮膚炎の子どもの親御さんに積極的に薦めています。
小児のアトピー性皮膚炎の大家である山本一哉先生(総合母子保健センター愛育病院皮膚科部長)が著書で推薦している
明治乳業・和光堂・ロート製薬のローションをよく薦めています。医者が処方するものではヒルドイドローションをよくすすめます。
(ローションだと,お母さんが子どもの全身に塗るのが楽ですからね。
ただし,保湿の効果としては「ヒルドイドローション」と,ローションではない「ヒルドイド」を比較すると後者のほうがよいとされています。
また,「ヒルドイドソフト」というのもあり,「ヒルドイド」独特のにおいがないが「のび」が「ヒルドイド」より劣り,
何をすすめるべきかは難しいところです……)
ただし,保湿薬は万能ではなく,保湿薬だけでアトピー性皮膚炎を治せるとは限らないので,
どうしても副腎皮質ホルモンを使わなくてはいけないときは使うよう,指導しています。
4 かゆみどめとして抗アレルギー剤・抗ヒスタミン剤の内服。掻くと,かゆみに対する神経が伸びて悪化するという説もあります。寝ているのとき掻くのを防止するため睡眠導入剤を用いることもありますが,長期間にわたって飲み続けると睡眠導入剤の効果はなくなっていきますので,短期間のみの服用あるいは連用は避け頓服とし,かわりに眠気を来しやすい抗ヒスタミン剤を寝る前に服用とするといいでしょう。
ただ,あくまでもアトピー性皮膚炎においては副腎皮質ホルモン外用の補助的な役割であり,
実際に処方して効果があれば飲ませ続けますが,効果がなさそうなら中止しています。
5 スキンケア・環境整備・ライフスタイルの指導:清潔,ダニを掃除で除去,綿の下着を着用。ストレス・睡眠不足・偏食などを避ける(といっても,現実的には難しい)。そのため,重症患者では教育入院を行うことがあります。
なおアレルギーを起こす食べ物が一つであればそれのみ除去できますが,複数ある場合全部除去すると成長を阻害するので,普通に食べさせることが重要です。
6 アイピーディ内服。100mgのカプセルを一日三回飲ませる。難治性のred faceなどがあれば試みてもよいですが,高価で速効性がないというデメリットがあります。私はまず処方しません。
7 漢方薬。実証・虚証(体力があるかないか)などの「証」(体質)を考慮して処方することになります。体質が人により異なるので,何が効くかは人それぞれで,あわないものを使うとかえって悪化します。
EBM (統計的根拠に基づく医療)では無効,とされていて,私も処方していません。
アトピー性皮膚炎を悪化させないためには
まず,ステロイド外用を怖がらないこと。最近は少なくなりましたが,民間療法で悪化し入院せざるを得ない人もいます。
ステロイドの飲み薬は副作用が多いのですが,塗り薬ではまともな皮膚科で処方する限りあまり内科的な副作用がありません。皮膚に副作用が生じることがあります(毛細血管拡張,皮膚が薄くなる,紫斑ができる)が,皮膚科のトレーニングを受けた医者なら,できる限りそれを少なくするよう処方します。
民間療法の広告による「ステロイド外用の副作用」だまされないこと。例えば「使い続けると黒くなる」といいますが,それはありえません。「使い続けると効果が乏しくなるためどんどん強いものを使うしかなくなる」というのも見かけますが,それもありません。(強いのに切り替える時は,あくまでも一過性に症状が悪化した時にやむを得ず短期間に使うだけです。もっとも,別の皮膚病(乾癬)では,ステロイドを使い続けると効果が乏しくなることは報告されています。)
病院によっては,「この薬はステロイドではありません。当院で独自に作った薬です」とか,「この病気はアトピーではありません。真菌によるものですので抗真菌剤を出しましょう」と嘘をついてステロイドを出して治す医者もいますが,当然好ましいとはいえません。
難しいのが,小児科でステロイドを使うな,非ステロイド系の外用薬を使えと指導される場合です。子どもではステロイド以外の外用薬で軽快することも多いため,確かに一理はあり,患児や親と小児科医のコミュニケーションを否定しないことを考えると,ある程度はやむを得ないでしょう。ただし,ある程度症状が強くなれば,ステロイドを使うのはやむを得ません。